「被子植物の起源と初期進化」という研究テーマは, これまでに「Abominable mystery=忌まわしき謎」とされ, 進化論で有名なダーウィンでさえ敬遠してきた。その主な理由は, 植物化石のデータが少なく, 被子植物の「失われた鎖」を見つけることは容易ではなかったことによるものである。ダーウィン以降, 1世紀以上もの長い間, この難問の解決のために多くの植物系統学者が, 現生の被子植物のなかに原始的な形質を探そうと比較形態学や植物解剖学的な研究を行ってきた。しかしながら, それらの論争の多くは「原始的な植物群は原始的形質をもっており, 原始的な形質をもっている植物は原始的な植物群である。」という循環論法に陥りがちであった。つい最近まで, 「被子植物の起源と初期進化」は, どうにも解決できない「忌まわしき謎」として, 植物学者の前に立ちはだかっている巨大な壁であった。

 

 ところが, 研究者らは最近この難問に対して非常に興味深い解決の糸口を見出し, 研究は新しい展開を見せてくれている。その一つは, 分子遺伝学的手法による研究成果である。分子系統学的研究は, 被子植物群の単系統性を強く示唆し, そのなかでアンボレラが最も原始的な植物であることを明らかにし, 原始被子植物群, モクレン綱,単子葉類および真正双子葉類が系統群を構成していることを解明した。分子系統学的研究の成果は, 現生の被子植物の系統関係を具体的に示している系統樹の完成が近づきつつあることを意味している。確かに, 分子系統学的研究は系統樹という枝分かれしている線を引くことができた。しかし, この系統樹上にあった植物の具体的な姿は明らかにはしてくれていない。

 

ムクゲの花粉

 

もう一つの糸口は, 長い地球の歴史のなかで, かつて地上に生育していた植物の具体的な姿を再現してくれる植物化石の研究である。従来, 植物化石といえば, 硬い岩石の層に押しつけられた印影の状態で発見される葉の化石が主なものであって, 1億年以上も前の白亜紀の地層から, 花の姿のそのままに化石となって発見することなどは想像すらされていなかった。

 

Crane博士を中心とした研究者らは, 白亜紀の地層から3次元的構造が良好に保存されている被子植物の花, 果実や種子などの小型化石を次々と発見し, 被子植物始原群の解明に画期的な貢献を果たしつつある。まさに, 白亜紀に生育していた被子植物の「失われた鎖」がよみがえりつつある。 

 

 

Peter R. Crane 教授

Yale大学 Dean of Forestry & Environmental Studies

 

新潟大学

  

研究内容の紹介

 masa(at mark)env.sc.niigata-u.ac.jp

  "The rapid development as far as we can judge of all the higher plants within recent geological times is an abominable mystery." 

Charles Darwin 1879年にJoseph Hookerへ出した手紙の一文)

 

かつて, 自然に咲いていたオキナグサやオミナエシなどの植物の姿が日本の野山で見かけなくなってから久しい。これらの植物のように, 自然のなかでささやかに咲いていた植物の中にも, 現代という時の流れのなかで消えつつある種も少なくない。

 

被子植物は,バラやユリなどの庭で育てる草花や食物として人間の生活を支えているイネ・ムギ・トウモロコシ・マメ類など, 身近な植物なども含まれる大きな植物群である。現在の陸上植物の種類のほぼ9割を占めており, 約23万5000種もあると言われている。これらの被子植物は, いつ頃から地球上に現われたのだろうか? そして, 初めの頃はどんな花を咲かせていたのだろうか? 被子植物は初期の段階でどのように進化してきたのだろうか?実は, 被子植物に関するこれらの疑問は, そう簡単に解決できるような問題ではなかった。

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